いつも、雨
「……大工の親方が、来られたと聞きましたが……何か不都合がありましたか?」

真昼の情事のあと、要人は領子にそう尋ねた。


一夫が毎朝やってくるようになって、一週間ほどが過ぎていた。



たぶんもっと前に、江連さんから聞いているはずなのに……今まで様子を見ていたのかしら。


笑いをこらえて、領子は首を横に振った。

「いいえ。特に何もありません。」



説明も言い訳もするつもりもないらしい領子に、要人はそれ以上何も聞かなかった。

ただ、言葉よりも雄弁に、行動で苛立ちを示した。


既に起き上がり、乱れた髪に櫛を入れていた領子の腕を強引に引っ張った。


「あ……」

と、小さな声を漏らして、領子は要人の胸に倒れ込んだ。


領子は苦笑まじりに、要人を諫めた。

「早くお帰りにならないと、原さんに怒られますよ。」


「……怒られますね……。」


そう言いながらも、要人は領子の身体に残る熱を再び掻き立て、貫いた。



……これって……嫉妬じゃないわよね?

まさか、あの宇賀神さんを、疑わないわよね?

では……?

竹原、何も言わないわたくしに、怒ってるのかしら。

それとも……?




領子は、それ以上、考えられなくなった。


過ぎた快楽が頭を真っ白にしてしまい、何もかもを忘れさせてしまう。

汗が噴き出し、涙が流れ、涎が伝い、愛液がとめどなく湧き出でる。


身も心も要人に支配され、領子は意識を手放した。




「……俺を……嫉妬させたくて、彼を引き込んだのか?」

要人は、小声でつぶやいた。



そんなわけがない。

頭ではわかっている。


領子はそんな小細工などしない。

……する必要もない。


領子が望みさえすれば、要人は何もかも捨てる。

その覚悟は、今も何ら変わりない。


……いや。

不思議なことに、要人の領子への想いは、以前より強くて深い。


こうして毎日逢える状況になれば、多少は落ち着くだろうと思っていた。

しかし、要人の中の領子は、ますます大きくなるばかりだ。


領子の24時間、365日を束縛し、独占すれば……飽きることができるのだろうか……。



安らかな寝息が、要人の荒ぶる心を慰める。

汗で額に張り付いた髪をそっと払ってやり、白い美しい額に恭しく口づけた。


……いっそ、食べてしまいたい。

爪の先まで、髪の毛一筋まで、すべてを俺のものにしてしまいたい……。


狂おしいまでの愛しさに、要人はこっそり涙した。
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