いつも、雨
「おはようさん。あんたは、朝から元気やなあ。」


ふふっと領子が笑った。

「宇賀神さんに教わって、朝にお抹茶をいただくようになってから、目覚めがいいの。……お兄さまも、ご一緒にいかがですか?どうぞ。」


勧められて、恭風は茶室に入った。

当たり前のように貴人畳に座った恭風に、一夫は驚いた。


領子に目で促され、一夫は恭風のしもてに座った。



「盆点前か。……まあ、ええけど。」


不満そうな恭風に、領子は肩をすくめて、一夫に苦笑して見せた。

一夫もまた微妙な笑顔を返した。


……やたらにアイコンタクトの多い……お互いの気持ちがわかり合っているかのような領子と一夫の様子を、どうツッコんで聞けばよいのか……恭風は困惑していた。



まさか……この男と……?


モヤモヤを抱えたまま、妹のお点前を見つめて、お茶を飲んだ。



……美味い……。

とても柔らかく、甘いお抹茶だった。



「これはどこのお茶や?」


恭風にそう問われ、領子は一夫と目を合わせてほほ笑み合い、それから答えた。


「この夏、宇賀神さんがお仕事されたという宇治田原のお茶の製造販売元ですわ。備長炭で仕上げてらっしゃるから、とても甘いんですって。ね?」


一夫は領子にほほ笑みかけ、恭風に聞いた。

「はい。……天花寺さんにもお届けしましょうか?」



恭風は、うなずきながらも、内心たじろいでいた。



この男は……いかにも武骨なこのクマのような男は……どうして、当たり前のようにココにいるんだ?

領子と、どういう関係だ?






お茶を2杯飲んで、一夫は辞去した。

普段通り、玄関先まで見送ろうとした領子を、一夫は押しとどめた。

「いやいや。ここで。お兄さんにもう一杯さし上げたら?……お兄さん、お邪魔しました。ほな、また。……ああ、お茶、明日、持って来ますわ。……まだ、いはりますよね?」





一夫が出て行くと、それまで明るかった部屋が急に暗くなってしまったように感じた。

恭風は、探るように領子を見て、口を開いた。

「……宇賀神さん……相変わらず、元気そうやな。」


領子はニッコリ笑ってうなずいた。

「ええ。本当に。お抹茶だけじゃなくて、宇賀神さんからも元気をいただいているような気がしますわ。」
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