いつも、雨
……どういうこっちゃ……これは……。


目の前の領子は、恭風の知る妹とは別人のように快活に思えた。


……好きなんか……。

あの粗野で教養のなさそうな男が、好きなんか!?



「あ!……ごめんなさい……お兄さま。火鉢のこと、聞くの、忘れてましたわ。……後で、お電話で聞いてみますね。」

領子が口元を抑えてそう言った。


「……火鉢て……宇賀神さんが知ってはるんか?……何で?」

恭風の中で、モヤモヤがはっきりと疑惑へと固まりつつあった。


「ええ。こちらにあった蔵を取り壊してしまいましたでしょう?押し入れですと湿気が強いので、宇賀神さんのお仕事場の倉庫に、いろんなお道具やお軸を預かっていただいてますの。……電話をすれば、お仕事帰りに、届けてくださいますわ。」


さらりとそう言った領子に、恭風の我慢の緒がぷちんと切れた。


恭風は、嫌味ったらしく言った。

「へえええ。えらい親切にしてくれはるんやなあ。……でもなあ、領子。あんたとあのおひとでは、不釣り合いやわ。もうちょっとわきまえなさい。」


領子は驚いて、マジマジと兄を見た。

「……何を……言ってらっしゃるの?……お兄さま……失礼よ?」


後ろめたいことは何もない領子には、恭風の真意がわからない。


恭風は小さく舌打ちして、語気を荒げた。

「失礼は、あのおひとやろうな。女所帯に図々しくズカズカと上がり込んで。なんなん?なに、してるんや、あんた。……竹原は……知ってるんか?」


領子の頬が怒りにカッと紅潮した。

「竹原は関係ないでしょ!」


「関係ないて、お前……自分の立場……わかってるんか……。」


兄の言い草が、領子を著しく傷つけた。


「……お兄さま?何をおっしゃるの?……わたくし……お友達とお茶を飲むことも、竹原の顔色をうかがわなければいけませんの?……馬鹿馬鹿しい。……知ってるわよ。竹原。とっくに。」

領子はそれだけ言って、ぷいっとそっぽを向いた。


子供のように拗ねた横顔。

やはり、これまでと違う。

領子が、まるで子供のように表情豊かなことに、恭風は驚きを禁じ得なかった。
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