いつも、雨
「……なんなんや。いったい。何で、ほっとくんや。」


恭風は、わざわざ会社まで押しかけて、要人に食ってかかった。


要人は肩をすくめた。

「突然、何ですか……まあ、想像つきますけど。……宇賀神くんですね。」


「せや!わかってるんやったら、なんでほっとくんや!」

恭風は興奮して、カッカしていた。


秘書課の女の子が冷たい玉露を運んで来たが、ろくに味わうことなく、一気に飲み干してしまった。


要人はもう1杯持ってくるよう頼んで、自分の分のグラスを恭風に回した。


恭風は、当たり前のように受け取って口を付けた。

「……うまいな、これ。」

ようやく、味に気づいたらしい。


要人は笑顔でうなずいた。

「昨年、うちの子供達が、恭匡さまから教わりましてね。氷でゆっくり玉露を抽出してるんですよ。……恭匡さまは、お元気でお過ごしでしょうか?」


「……元気ちゃうか?あっちは何でも食べ物が美味いからな。……夏休みもちょろっとしか帰って来んかったわ。」


「お勉強がお忙しいのでしょうね。」



恭匡は、せっかく建てた恭風こだわりの新居の完成を待たず、はるか遠く北の大地へと旅立った。

全寮制の進学校で勉強三昧の日々を送っている。


……父の恭風や、要人への不満が選んだ道であることは明らかではあるが……夜遊びや、悪い仲間、反社会的な行動に訴えるわけではないあたりが恭匡らしい。



学力が上がるだけでなく、精神的にタフになって帰って来られるだろう……。


要人は、恭匡の成長が楽しみでしかたない。



「勉強ゆーたら、義人くん、受験するんやろ?」

思い出したように、恭風が尋ねた。


義人は現在、小学6年生。

偏差値的には問題ないので、中学からは私立の学園に行くことになるだろう。



「ええ。そのつもりで受験勉強しているようです。」

「難関らしいなあ。百合子も同じとこに行きたいらしくて、塾に通うらしいで。」

「……そうですか……。」

要人は目を伏せた。


なるべく、百合子の話は避けたかった。

血を分けた娘であることを隠さなければいけない。


領子から話を聞くこともあるが……立場上、何もしてやれない要人にとっては、歯がゆいことが多い。



「百合子も懐いてるんやろか……あの男に……。」

恭風がつぶやいた。
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