いつも、雨
黙殺したかったけれど、恭風に礼を欠くわけにはいかない。


要人は、淡々と返事した。

「……百合子さまは、むしろ呆れてらっしゃるとうかがっています。……世間体が悪いと仰っているそうです。」


恭風は大きくうなずいた。

「そうやんなあ!……せやのに、なんで、領子は……。まさか、あの男に気があるわけじゃないやんなあ?」


さすがに、要人の頬が引きつった。

「……煽りますね。……しかし、私には、何とも……。」


「いやいやいや。あんたの言うことやったら聞くやろ?」


恭風は何も、愚痴をこぼしに来たわけではない。

何とかしろ、と、要人に命じに来たのだろう。


要人は困った表情を見せた。

「私には何も言う権利はありませんよ。……いや……あまり、干渉すると、領子さまは意地になってしまわれるような気がします。……ああ見えて、頑固なおかたですから……。」

「ほんまに頑固やわ。まったく……。」

煮え切らない要人に対する文句も相俟って、恭風はぷりぷりと怒っていた。






結局、その夜、恭風は領子の住まう天花寺家京都別邸には戻らず、要人の家で下にも置かぬもてなしを受けた。

「温泉まであるって……極楽やなあ。」

秋の月を眺めながら、温泉で酒を酌み交わした。


「はあ。いつでもお越しください。」


「……佐那子さん、相変わらず、優しいヒトやなあ……。」

しみじみと、恭風がつぶやいた。



……佐那子は、あれから……要人と領子の関係については何も聞かない。

疑っていないわけがない、とは思う。

もちろん、領子が百合子とともに京都に住んでいることは知っている。

こっそりと、領子が住まう屋敷に要人が通ってないか、興信所で調べてもらったこともある。


しかし、要人はこれまで以上に用心している。

領子のもとを訪ねるようなことはしていない。

外泊はもちろんのこと、夜遅くまで帰らないこともない。


……会社を抜け出したり、外出のついでに領子との時間を設けてはいるが……一緒にいるところを誰かに見られるようなことは一切していない。


佐那子は、これといった証拠をつかめないまま……最近では、一夫の存在に首を傾げている。

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