いつも、雨
「家内も、宇賀神くんと領子さまの関係が気になるようです。」


要人がそう言うと、恭風は憮然とした。


「……まさか、あんた……、あの男を、カモフラージュにしてるんかいな。佐那子さんの目をくらませるのに、ちょうどいいとか思ってるんやろ……。」


うっすらと要人は微笑した。


……否定はできなかった。


最初のうちは、要人も確かに、嫉妬した。

しかし、しばらく観察しているうちに、何となくわかってきた。

領子は一夫を男として見ていない。

友達……と言っていたが、むしろ、小さな子供がぬいぐるみを偏愛し、お友達として話し掛けているようなものだろう。


無論、楽観視はできない。

領子にとって一夫は人畜無害なぬいぐるみでしかなかったとしても、一夫は筋骨隆々のたくましいいっぱしの男だ。

いつ野獣に変貌して、領子を押し倒すかわからない。


そのために、要人は江連を常に領子の身辺に置いているし、キタさんにも注意喚起している。

間違いが起こらないように、細心の注意を払っているつもりだ。


……本当なら、非合法的な手段を講じても、一夫を追っ払ってしまいたいところだが……恭風の言う通り、要人は一夫の存在を、ある意味、利用していた。



妻の佐那子は、一夫をよくよく知っていた。

家の普請に来ていた大工の中でも、一夫は一際腕の立つ、気のイイ親方だった。

天花寺家の領子さまとはとても釣り合うとは思えないし、つき合っているのかは甚だ疑問だけれど、少なくとも、一夫が領子に惚れ込んで通い詰めており、領子もまた門前払いするほど嫌っているわけでもなく、毎朝招き入れているということは事実だ。


「……なかなか優秀な男ですね。宇賀神くんは。……今、建築中の本社ビルの中の和室と茶室を任せているのですが……腕も、お人柄も素晴らしいですよ。」

要人は、あまつさえ、一夫を褒めちぎった。


恭風の機嫌がまた悪くなってしまった。

「……そうかぁ。ほな、あんたは、領子があの男と再婚してもかまへんねんな!?……いや、むしろ、再婚したほうが都合がええんやろ!」


要人は、眉をひそめた。

「再婚って……。さすがに、それは、あまりにも釣り合わないでしょう。」



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