いつも、雨
かつて自分が受けた理不尽な反対を要人が何の疑問もなく口にしたことに、恭風は苦笑した。

「……ほんまやな……今の竹原やったら……死んだ両親も、渋々でも認めたかもな。……皮肉なもんや。」


要人の胸に、恭風の言葉が突き刺さった。



……そうだ……。

釣り合わない……それが、いったいどうだというんだ。

そんなもので、気持ちを止めることはできなかった。



それ以上何も言えなくなってしまった要人に、恭風は力強く言った。

「とにかく、わしは気に入らん。間男(まおとこ)を出入りさせるために京都に住まわせてるんちゃう。竹原が、追っ払らへんにゃったら、しゃあらへん。連れて帰る。」


「……東京へ……ですか?」


「他に家、ないからな。」

恭風は不機嫌そうにそう言ってから、ふと気づいたように尋ねた。

「竹原は?どっかに別荘買うてへんのか?……どこかに領子を隔離するっちゅうのも、ええかも……」


要人は苦笑した。

「いえ。……その都度、ホテルに宿泊するほうが楽なので。……領子さまはともかく……百合子さまの学校もありますし……そう簡単には……」


「ふぅん。……まあ、自宅で充分過ぎるぐらいリフレッシュできそうやな。温泉、ええなあ。」

しみじみそう言って、恭風は盃を酒で満たして、ぐいっと飲み干した。



恭風は、よほど気に入ったらしく、結局、領子のいる屋敷には帰らず、竹原家に連泊した。










「お兄さま……どうして、らっしゃいます?」

気まぐれな兄だが、何も言わずにふらっと出て行ってしまったまま戻らないのは、たぶん、自分への当てつけなのだろう。

兄が何に対して腹を立てているのか……さすがに、領子にも想像はつく。

しかし、やましいことがない領子には、自らそれについて言及する気もない。

せいぜい、間に立った要人に状況を尋ねることしかできない。


要人は、つい先ほどまで自分の腕の中でとろけていた領子が、夢から醒めたように現実的になっていることに、多少意地悪な気持ちになった。


「……お怒りですよ。領子さまを、東京に連れて帰るとまで仰っていました。」

「え……。」


さすがに、そこまで兄が怒っているとは思いもしなかった領子は、目を見開いて絶句した。
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