いつも、雨
お茶を啜る体勢のまま固まっている一夫に、領子は続けた。
「でも、結婚となると、そう簡単には参りません。……わたくしは、百合子のことを一番に考えて生きてゆく、と決めています。……同じぐらい、宇賀神さんのご両親やお兄さまは、宇賀神さんの幸せを願ってらっしゃるはずですから、わたくしを快く受け入れられるとは思いません。」
淡々と言ったつもりだった。
でも、一夫は、領子の声から哀しみと諦めを感知した。
ズズッと音を立てて茶を飲み干すと、一夫は茶碗を両手でしっかり持ったまま、領子に言った。
「わかった。ほな、うちのもんと話つけてくる。……まあ、結果がどうあれ、わしはえりちゃんのこと、諦めへんけどな!」
そう言って、一夫は立ち上がった。
領子は、座ったまま一夫を見上げた。
どれだけ瞼が腫れてても、顔がむくんでいても、領子はとても美しく見えた。
一夫は、力強く言った。
「明日の朝、また来るわ。えりちゃんは、何も心配せんでええ。お兄さんも、説得する。……せやから、もう泣かんとき。機嫌ようらとしとき。」
……機嫌……ようらと?
ようらと、って、初めて聞いたわ。
馴染みのない言葉を反芻しているうちに、一夫は茶室を出て行ってしまった。
いつもなら玄関先まで見送るのに、領子はじっと座ったまま。
……そう言えば、お茶碗……。
抹茶茶碗が見当たらない。
もしかして、宇賀神さん、持って行っちゃったのかしら……。
愉悦がこみ上げてきた。
……堂々としてらっしゃるようでも……あのかたも、緊張なさってたのね……。
くすくすと笑っていると、キタさんが様子を見に来た。
「領子さま。……あの……宇賀神さんとは……」
「ふふ。プロポーズされちゃった。」
どう見てもうれしそうな領子に、キタさんもほほ笑んだ。
「……そうですか。では良いお返事をされたのですか?」
「いいえ。そのつもりはなかったわ。でもわたくしが挙げる理由は、宇賀神さんにとっては取るに足らないものみたい。……そのまま押し切られちゃうかも。」
まるで他人事のような言い草だが、投げやりではなく、領子は楽しんでいた。
恋じゃなくても、領子が一夫を気に入っていることは明らかだ。
……竹原さんには悪いけど……宇賀神さんとご一緒にいらっしゃる領子さまは、とても楽しそうなのよね……。
「でも、結婚となると、そう簡単には参りません。……わたくしは、百合子のことを一番に考えて生きてゆく、と決めています。……同じぐらい、宇賀神さんのご両親やお兄さまは、宇賀神さんの幸せを願ってらっしゃるはずですから、わたくしを快く受け入れられるとは思いません。」
淡々と言ったつもりだった。
でも、一夫は、領子の声から哀しみと諦めを感知した。
ズズッと音を立てて茶を飲み干すと、一夫は茶碗を両手でしっかり持ったまま、領子に言った。
「わかった。ほな、うちのもんと話つけてくる。……まあ、結果がどうあれ、わしはえりちゃんのこと、諦めへんけどな!」
そう言って、一夫は立ち上がった。
領子は、座ったまま一夫を見上げた。
どれだけ瞼が腫れてても、顔がむくんでいても、領子はとても美しく見えた。
一夫は、力強く言った。
「明日の朝、また来るわ。えりちゃんは、何も心配せんでええ。お兄さんも、説得する。……せやから、もう泣かんとき。機嫌ようらとしとき。」
……機嫌……ようらと?
ようらと、って、初めて聞いたわ。
馴染みのない言葉を反芻しているうちに、一夫は茶室を出て行ってしまった。
いつもなら玄関先まで見送るのに、領子はじっと座ったまま。
……そう言えば、お茶碗……。
抹茶茶碗が見当たらない。
もしかして、宇賀神さん、持って行っちゃったのかしら……。
愉悦がこみ上げてきた。
……堂々としてらっしゃるようでも……あのかたも、緊張なさってたのね……。
くすくすと笑っていると、キタさんが様子を見に来た。
「領子さま。……あの……宇賀神さんとは……」
「ふふ。プロポーズされちゃった。」
どう見てもうれしそうな領子に、キタさんもほほ笑んだ。
「……そうですか。では良いお返事をされたのですか?」
「いいえ。そのつもりはなかったわ。でもわたくしが挙げる理由は、宇賀神さんにとっては取るに足らないものみたい。……そのまま押し切られちゃうかも。」
まるで他人事のような言い草だが、投げやりではなく、領子は楽しんでいた。
恋じゃなくても、領子が一夫を気に入っていることは明らかだ。
……竹原さんには悪いけど……宇賀神さんとご一緒にいらっしゃる領子さまは、とても楽しそうなのよね……。