いつも、雨
「いや、それが……恥ずかしながら、反対されてまして……。それで、社長にうまいことゆーて説得してもらえへんかと思いまして……。」

「……あ。そうなの?まあ……主人は、交渉はお手の物でしょうけど……。あの……お相手は……どちらの……」


佐那子の質問に、一夫はニカッと笑った。

「はい!社長に仕事を紹介してもらいました、天花寺さんのとこに住んではる、橘領子さんですわ。」


……橘領子さま……。


ドクドクと、自分の心臓が脈打つのを感じた。

さすがに、驚いた。


いや……。

一夫の懸想は火を見るより明らかだったが……領子が一夫の気持ちに応えるとは思わなかった。


では、橘領子さまは、本当にこの……宇賀神さんと結婚されるおつもりなの?


……あ!

佐那子はようやく気づいた。

ここ数日、要人がおかしい理由。


……そう。

そういうことなのね。

……阿呆なヒトねえ……。

未だに、そんなにも、橘領子さまがお好きだったの……。

結局、再婚してもらえなくっても……あのヒト、全然あきらめてなんて、なかったのねえ。

やっぱり……隠れて、橘領子さまと……続いていたのかしら……。


……この……宇賀神さんと、橘領子さまのご結婚でも……まだ、あきらめきれないのかしら……。


「あの……それで、社長はえりちゃんのお兄さんと友達やから、説得してほしい思いまして……。」


佐那子は慌てて笑顔を取り繕って、うなずいた。

「そうですか。わかりました。主人に伝えます。……ただ……主人と恭風さまはお友達じゃあないんですよ。主筋のかたですので……私どもが天花寺さまに仲人ををお願いするならともかく、天花寺さまのお嬢さまの仲人をさせていただくというのは、僭越かもしれません。」


すると一夫は目を丸くした。

「そんな……今時……」


佐那子は苦笑して、うなずいた。

「ええ。今時ですわね。でも、主人はそれはもう、天花寺さまを大切に想ってますので。……そうですね。それでは、恭風さまの説得は主人に任せるとして、……晴れの舞台でのお仲人は、天花寺さまの家格にふさわしいおかたを紹介していただけるように言ってみますわ。」


一夫は、佐那子にぺこりと頭を下げた。

「おおきに!ありがとうございます!よろしくお願いします!」


佐那子は、やるせなさとせつなさを隠して、笑顔でほほ笑んだ。
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