いつも、雨
「恋が終わって……愛が残った……か……。」

要人は何とも言えない表情で、報告書を眺めていた。


「……情がわいたのでしょう。由未さんに対する、義人さんの度の過ぎた可愛がりっぷりを考えますと、むしろ自然な流れだったのかもしれません。……正直、そこまで考えが及びませんでした。迂闊でした。」

秘書の原は、くやしそうにそう言った。


「いや。別に君のせいじゃないだろ。……私も、驚いてるよ。普通は、関係した女が妹だったとわかったら、ひとまず男女関係は解消するだろ。……むしろ、これ……回数が増えてないか?……どういうことだ?……私には、あいつがわからんよ。」

要人(かなと)は思わず頭を抱えた。



原は、神妙にうなずいて、それからおもむろに口を開いた。

「……まあ、普通は距離を置きますよね。……まったく、厄介ですね。簡単に手に入る女には飽きてらっしゃるのか……そもそも興味がお有りではないのか……。どうやら、障害がある恋に燃える性質のようですね。」


「なるほど。……精神的にマゾということか……」

真面目にそんなことを言った自分に気づいて、要人は笑った。


ばかばかしい。

愚息の性癖なんか、どうでもいい。

恵まれ過ぎるほど恵まれた男だ。

恋愛ぐらい、せいぜい苦労すればいい。


そんなことより、おいたわしいのは……百合子さまだ……。

……息子とは言え、悪い男に引っかかってしまったとしか言いようがない……。


さすがに娘の百合子の状況を思うと、要人の胸がズキズキと痛んだ。








領子(えりこ)もまた、これまで以上に娘の百合子の様子を気に掛けていた。

百合子は、以前と変わらないように振る舞ってはいたし、身なりが派手になることも、素行態度が悪くなることもなかった。

ただ、ぼんやりとテレビを観ている時などに時折見せるアンニュイな表情が気になった。


娘の気持ちが痛いほどにわかりすぎて、領子もまた沈みがちになった。

やはり母娘だから、似てるのかもしれないわ。


漠然と、そんな風に思い始めていた。


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