いつも、雨
不倫も、異母兄への恋慕も、ヒトの道に外れているのに……好きだという想いは消えてくれない。

……似てるのは、竹原と義人さんも同じね……まあ、お2人とも絶対に認めないでしょうけれど。

女性に不自由してないくせに……他にいくらでも関係している女性がいるくせに、よりによって、禁忌を犯してまで七面倒くさい高嶺の花への執着を捨てない。


完全に自分のモノにできない相手だから、追い続けるのかしら。


領子も百合子も、逃げるポーズすら取れないほどにこの関係に溺れているのに……。


かわいそうな百合子……。

かわいそうな、わたくし……。


自分の心もコントロールできない領子は、娘を案じながらも、陰ながら見守ることしかできなかった。





ふとした折に沈んだ表情を見せるのは、何も百合子に限ったことではなかった。

一夫は、妻の領子が自分に見せる素直な喜怒哀楽以外の、物憂げな表情を垣間見ることが増えた。


……領子を信じていないわけではない。

いや、むしろ、領子の自分に対する信頼と愛情をを信じているからこそ……口出しもできないが、ほっとくこともできなかった。


「悩みがあるんやったら、いつでも、言いや。……わしに、変な気ぃつかわんでええしな。わしは、領ちゃんの笑顔が好きなんや。……そのためやったら、なんでもしてやるからな。」


そんなことを言い出した夫に、領子は驚いた。

「え……。あの……、わたくし、幸せよ?一夫さんがいらっしゃるだけで、心が温かくなって、笑顔になれますわ。……本当は、ずっとそばにいらしてほしいんですけど……お仕事に行くな、とは言えませんものね。」


リップサービスではなく、本音だった。



たぶん一夫が24時間365日、領子のそばから離れずに居てくれたら……領子は笑顔をたやさず暮らしていられるだろう。

要人に逢う時間はなくなってしまうけれど、そのほうが、心穏やかに生きていけるはずだ。



領子は、一夫の太くたくましい腕にそっと頬を寄せた。

一夫は黙って、領子の肩をしっかりと抱き寄せた。


まるで材木を抱えているかのように、武骨な抱き方だけど……何故か、心から安心できた。


……感謝と愛情に満たされた……。
< 392 / 666 >

この作品をシェア

pagetop