いつも、雨
領子とは対照的に、要人の妻の佐那子は華やかな場への出席を全て断わってきた。

もともとは、勘当された実家への配慮だった。

それが、実家を継いだ鶏冠井(かいで)議員とその夫人とになるべく顔を合わせたくないという理由に変わった。


もちろん、地元町内会の回り持ち役員や、子供たちのPTAの役員は、普通に引き受けてきた。

だが、下の娘の由未が、要人の外の娘である百合子と同じ中学校に入学したことで、学校関係の行事にも顔を出すことをやめてしまった。


持て余した時間を、佐那子は庭で過ごすことが多かった。

季節ごとに咲く花々に囲まれ、遊びにやって来た野鳥と戯れていると、嫌なことを忘れられた。



……今頃……要人さんは、どこで、誰と過ごしているのかしら……。


ふとした折に頭によぎる悲しい想像。


会社で仕事をしているはず……。


そう思いたいのに、信じることのできない自分を責めることもあった。



「……いっそ、離婚したほうが、楽なんやろけど……なあ……。」

庭のヨモギを摘みながら……、佐那子は知らず知らずのうちに、本音をつぶやいていた。


……すぐそばに、息子の友達が居ることに気づかないまま……。


「でも、おばさま、おじさまのこと、お好きでしょう?」

突然そう問われて、佐那子は驚いて振り返った。



ハーフにしては不自然なほどの明るい髪が、太陽を受けてキラキラと白金色に輝いていた。


……天使に尋問されてるみたい……。


ふっ……と、佐那子はほほ笑んだ。


「セルジュくん。聞いてたの?びっくりした。……義人は?」



つい最近、息子の義人に、いわゆる親友が2人、できた。

昔から人当たりはいいし、女の子にはもてまくってきたし、夜遊びや悪いことをする仲間には事欠かなかったが……どうやらこの2人は、そういうのとは一線を画するらしい。
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