いつも、雨
佐那子は、首を傾げた。

「……そんな風に、見える?」


「ええ。……少なくとも、おばさまの気を引きたいんだろうなあ、とお見受けしてますが。……心当たりありませんか?」

そう尋ねておいて、セルジュはくすくすと笑った。


つられて、佐那子も笑った。

「……やあね。私、高校生男子に慰められてるわ。……でも、ありがと。そうね。最近は、すっかり諦めモードで、何の努力もしてなかったわ。……おにぎり、作りましょうか。」


「いいですね。若竹煮と、お吸い物も付けてくださいね。」


……何だかんだ言って、セルジュ自身もタケノコを食べたくなったらしい。

それほど好きというわけではなかったが、竹原邸で供されるタケノコは、これまでセルジュが食べていたものより遙かに甘くて柔らかくて美味しかった。



すぐに佐那子は知り合いのタケノコ農園に電話をかけた。

下ゆで済の朝掘りタケノコを届けてもらうと、夕食の準備に取りかかった。


由未の帰宅と前後して、要人が着替えに戻って来た。



「おかえりなさい。……お着物、出してあります。」

セルジュが「笑顔笑顔」と小声で指導してくる。

しかし、意識すると、いつも以上にぎこちなくなってしまった。



「……ああ。ありがとう。……イイ香りがしてるな。」

空腹の要人が、鼻をひくつかせた。


今度こそ、佐那子は笑顔を作った。

「筍ご飯を炊いたの。おにぎり、作っておきました。よろしければ、召し上がってください。」


「え……。」

想像しなかった返事に、要人は驚き、言葉を失った。


佐那子の笑顔も固まった。


しばらくの沈黙の後、要人が戸惑いながら、ほほ笑んだ。

「……ありがとう。車の中で、いただくとしよう。」


佐那子もまた、ホッとしたようにうなずいた。

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