いつも、雨
車に乗り込んでから、要人は佐那子の手渡してくれたおにぎりに口を付けた。

タケノコと油揚げだけのシンプルなものだったが、昆布だしが効いていて美味しかった。




「……どういう風の吹きまわしだろうな。」


要人のつぶやきに、助手席の原が恭しく答えた。


「そう言えば、社長に渡されるのは、珍しいですね。私たちには、いつも何かとお心遣いくださって持たせてくださいますよ。」


運転手の荒井も黙ってうなずいた。



「……そうか。」

まったく、気づかなかった……。


要人はそれ以上何も言わなかった。


しみじみとおにぎりを味わい、あまり味のしみてない若竹煮をつまみ、水筒の中のお吸い物を飲み干した。

空腹だけじゃなく、虚しい心まで満たされる気がした。








夜遅くに、義人が夜遊び仲間を3人連れて帰宅した。

いつものように、佐那子は彼らを好きにさせてやった。


「おかえり。遅かったね。筍ごはん、少しだけ残ってるよ。……彼らの分までは、ないかな。」

キッチンに食糧と酒を物色に来た義人に、濡れ髪のセルジュがそう声をかけた。


義人は、トレーにビールを積み上げながら顔を上げた。

「ふーん?炊き込みご飯の時は、いつもめっちゃ大量に炊いてるのに。セルジュと由未で食ってしもた?」

「はあ?由未はともかく、僕は少食だけど。失礼だな。」


セルジュはワインクーラーからシャンパンを継ぎ足して、飲み干した。

温泉上がりのセルジュには、冷えた炭酸が喉に心地いい。


「うまそう。俺も。」

義人もまた、手酌でグラスになみなみと注いで、煽った。


無防備にさらした義人の首元に小さな赤い跡を見つけて、セルジュは鼻白んだ。


……確か……出掛ける前はなかったよな……。

女と過ごしたことをカモフラージュするために、夜遊び仲間と合流して、わざわざ連れて帰って来たのかな?

そこまでして、ごまかしたい相手か……。


興味がないと言えば嘘になるが、わざわざ他人のコイバナを聞きたがるほど野暮でもない。


セルジュは生々しい唇の跡から目をそらして、淡々と言った。

「義人のお母さんがおにぎりを作って、お父さんに持たせてあげたんだよ。なんだか2人とも初々しい顔してたよ。」


義人の表情が固まった。


さっきまでのチャラさが消えて、目つきが険しくなっている。



……まったく……お父さんの話になると、いつも、こうだよ。

実の父親に対して、もう少し寛容になれないものかね。

< 397 / 666 >

この作品をシェア

pagetop