いつも、雨
セルジュは黙って部屋を出ると、勝手知ったる……といった態で、ふわふわのスリッパを持ってきた。

そして、由未のすぐ前で片膝をついた。

まるでシンデレラにガラスの靴を履かせてあげる王子様のように、セルジュは由未にスリッパを履かせてやった。


「あ……ありがとう。」

由未の頬が真っ赤に染まった。


「女の子は、冷やしちゃダメだよ。それに、ちょっと薄着過ぎる。義人のツレ、けっこうヤンチャだし、酒飲んでるし……用心したほうがいいな。」

いつも通り、口うるさいお小言……なんだけど……綺麗なお顔で至近距離で言われると、なんとなく……違った印象を受けた。

「……うん。」

素直にうなずいた由未に、セルジュは笑顔を見せた。


そして、由未の頭をそっと撫でた。


由未は、一瞬ポーッとしたけれど……途中で気づいた。

「って!セルジュかて、お酒飲んでるやん!」


慌ててそう突っかかると、セルジュは笑って、立ち上がった。


「いや、だから、こんなの水代わりだってば。さて。そろそろやすもうかな。……由未、トイレ?お部屋まで送るよ。」



トイレ……とは、さすがに言えず、由未はぷるぷると首を横に振った。

「いい。自分家(じぶんち)の中で送るとか……大袈裟すぎ。」

「そう?……じゃあ、お休み。お姫さま。イイ夢観なよ。」

「……おやすみなさい。」


パタパタとスリッパの音を立てて、由未が走る。


「走らない!危ないから!」

「はぁい!」


背後から追ってくるお小言から逃げるように、由未はトイレへと駆け込んだ。







……へ……え……。

これはこれで……おもしろいかもしれないな。


何となく予定を変更して帰宅したため、音を立てずに静かに家に入ってきた要人が、2人のそんなやりとりを目を細めて見ていた。


可能性は多いほど、いい。

松本聖樹くん……。

確か彼も、折り紙付きの名家の子だったな。



……ふふ……。

恭匡さま、また、やきもきされるな……。


さて。

……どうされるかな?


想像して、要人は愉悦に肩を震わせた。
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