いつも、雨
しゅるり……。


音を立てないように絹を滑らせて、要人は着物を脱ぎ捨てた。


大きなベッドの端で、佐那子が寝息をたてていた。


……そうか……。

気づかなかったな……。

君は……いつもそうやって、俺の場所をあけて待っていてくれてたんだな……。


改めて、要人は、佐那子のいじらしさに打たれた。


言葉にしなくても、態度に表さなくても……。


……いやいやいや。

それじゃ、わからないだろ。


俺はこう見えて、……自信がないんだ。

愛し合ってるとどれほど確信しても、俺の腕の中から何度もすり抜けて、他の男に嫁いだ領子さま。

求めても、求めても、手に入らない。

なのに、諦めきれず、執着を断ち切れない。

日毎夜毎に飽きもせず、恋しく求めている……。



そんな俺に、それでも心から愛し続けてくれているヒトなんか、いるわけがない。

誰だって、そうだろ?

どうせ俺に群がる女は、金と社会的地位に目がくらんでいるだけ。


……だから、佐那子が、わからない……。


信じられないわけじゃない。

人としての愛情深さは、尊敬に値する。

だが、それは、男女間の色恋じゃない。

アガペー。

子どもたちへの慈愛と大差ない。

そう、諦めていた。


……だが……。




要人は、戸惑いながらも、そーっとベッドに横たわった。

佐那子を起こさないように潜り込む。



……君は、今、どんな夢をみてるんだろうな。


鼻先にかかった髪にそっと触れ、整えた。

安らかな寝顔が、ただただ愛しかった……。


要人は、ほとんど無意識に、佐那子を抱きしめた。



柔らかい……。

こんなに柔らかく、頼りなかったか?


ぽにゃぽにゃした身体は、何とも言えず、抱き心地がよかった。

ついつい手が動く……。



「ん……くすぐったいってば。……もう……。」

くすくすと小さく笑いながら、佐那子がそうつぶやいた。


目が覚めたのか?


顔を覗き込んだが、佐那子は目を閉じたまま……ふたたび、すーすーと安らかな寝息をたてた。


寝ぼけているのか……。


かわいい、と思うと同時に……要人は少しだけ苛立った。
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