いつも、雨
恭匡(やすまさ)の顔から血の気が失せた。

「義人(よしと)くんと同い歳の男性のいる家に由未(ゆみ)ちゃんを下宿させるのですか!?」



要人(かなと)は、にんまりと笑った。

「正確には、彼しかいない家、ですね。洗練された貴公子と生活を共にすれば、元気だけがとりえのがさつな男のことなんぞ、すぐにどうでもよくなるかもしれません。……実際、私は、そうなればいいな、と、密かに思っています。」


恭匡の表情がめまぐるしく変化するのを見て、恭風(やすかぜ)は笑った。

「そうかそうか。まあ、男と女のこっちゃ。身近にいたら、そーなっても、なんもおかしないわなあ。」


要人もまた満面の笑みを浮かべて大きくうなずいて見せた。


ただ1人恭匡だけが、憮然としていた。


酒は本当に旨いのに……くそっ。

もはや酒の味なんか、わかるわけもなかった……。


恭匡は逃げるように、退座した。



恭風と要人は顔を見合わせて、声をたてないように笑い合った。




しばらくしてから、恭風が小声で尋ねた。

「……で、本当のところは、どうなんや?由未ちゃん。親元から出すには、ちょっと早いんちゃうか?」


要人は、うなずいた。

「ええ。そうですね。……でも、ある意味、ホッとしてるんですよ。義人はともかく、由未は義人に対するコンプレックスと依存で凝り固まって委縮してましたから。……せっかく他の男に興味が涌いたのなら、環境を変えてしまうのもいい荒療治になることでしょう。」


恭風は不思議そうに首を傾げた。

「愛娘のことやのに、他人事みたいやで。……取り返しつかへんことにでもなったら、どうする気ぃや。」



なるほど。

実の父親の要人より、恭風のほうがよほど心配しているようだ。


要人はほくそ笑んだ。

「……信じてますから。由未の初恋は成就しないことも、家主となる義人の友人が由未を非行に走らせないようきっちり管理してくれることも、……これまで以上に熱心に恭匡さまが見守ってくださることも。」


恭風はまじまじと要人を見た。

「……あいつ……ストーカーでもしてるんか?」


要人はにやりと笑ってうなずいた。
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