いつも、雨
「興信所に調査を依頼されたり、たまぁに由未の学校行事を、遠くのほうから眺めてらっしゃる程度ですけどね。」


充分やがな!


恭風は額を抑えて天を仰いだ。


……暇な大学生のくせに、サークルにも入らへん、合コンにも行かへん、特定の彼女も作らへん……もしかして、全寮制男子校なんかに居たせいで女に興味がなくなったんやないかとすら思ってたけど……まさか、まだ中学生の女の子、それも、逢うこともままならない子ぉへの執着を捨ててへんかったとは!


「……しつこい子ぉやなあ。誰に似たんや。領子か。……いや。……間歇遺伝で、あんたにも似てるかもしれへんなあ。」

恭風はしみじみとそう言った。


要人は少し驚いたが、特になにも言わず聞かず……、ただ、黙って酒を煽った。




……中世まで遡ることのできる代々続く主従関係……。

そこには明確な身分差があると同時に、決して証拠の残ることはない血の交わりの歴史が繰り返されてきた。






「なあ。竹原。……由未ちゃんを恭匡にくれんやろか。そういうことやったら、多分、一生、大切にしよると思うわ。……何のおもしろみもないヤツやけど。……婚約とか……時代錯誤やろか。」

突如、恭風はそんなことを言い出した。


さすがに、要人は目を見開いた。


……かつて、要人はどれだけ頼んでも領子との婚姻を認めてもらえなかったのに……世代が変わり、時代が変わり、立場が変わると、逆に請われるとは。


「……身に余る光栄……ありがとうございます。でも、今はそのタイミングじゃありませんね。いつ、どうなるかはわかりませんが、娘が初恋をあきらめるタイミングでうまく誘導できるよう腐心しましょう。」

要人はそう約束した。

  
恭風は何度もうなずいた。

「せやな。頭ごなしに反対して、押し付けたら逆効果やわな。うんうん。そやな。……竹原。頼んだで。」


やけに気弱な表情に引っかかった。

そう言えば、いつもより酒量も少ない気がする。


「……恭風さま?お身体、すぐれませんか?」

恐る恐るそう尋ねた要人に、恭風は苦笑して見せた。

「いや。たいしたことちゃう。……夏の疲れがとれへんまま秋に来てしもたかな。」
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