いつも、雨
穏やかな夜だった。

寝たふりする必要もなく、自然と寄り添い重なり合った。


お互いの温もりに、どれだけ心癒されるか……。


……激しい恋心じゃない……。

それは佐那子も重々承知している。


しかし、それでも、要人にとって、自分の存在が……ほんのわずかでも意味のあるのなら……それでいい……。

触れるのも躊躇われた時期を超えて、もう一度、無理のない距離感で夫婦関係を再構築し合えるのなら……。


佐那子は、しこりのように消えてくれない何かを振り切るかのように、小さく首を振って、目を閉じた。

要人の規則正しい寝息が、佐那子を眠りにいざなった。





翌朝、要人は改めて、佐那子と義人に葬儀の尽力をねぎらった。

 「……しかし、お逮夜に行けないとなると……心配ですね……恭匡さん……。」

義人のつぶやきに、佐那子は夫の要人をじっと見た。

要人の眉間に深く皺が刻まれた。


本当なら、毎週毎週のお逮夜法要も全て手伝いたい。

しかし、喪主の恭匡に笑顔で固辞されては仕方ない。



佐那子は、視線を落として、小さく息をついた。

……ごめんなさい。

私、少しホッとしてる……。

毎週あの女性のいらっしゃる法要に行く要人さんを、笑顔で送り出して、笑顔で迎えるのは……つらすぎるわ……。


お逮夜に行かないなら、あとは、四十九日と百か日だけかしら。




「できることをさせていただくしかあるまい。……頼んだよ。」

佐那子の肩にそっと触れてから、要人は家を出た。


迎えに来た秘書の原に小さく会釈をしてから、佐那子は要人に満面の笑みを見せた。


要人は軽くうなずき、背を向けた。





その日の午後。

悪びれもせず、要人は、東京から帰って来たばかりの領子(えりこ)を駅で拉致した。


「……疲れてますのよ。」

さすがに嫌そうな顔を見せ、気乗りしないらしい領子を、なだめすかして抱いた。
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