いつも、雨
携帯に残されたメッセージは、ある会社の株価暴落を伝えていた。

要人には無関係な会社ではあったが、わざわざ秘書の原が知らせてきたのには意味があるはずだ。



記憶の中の膨大な資料や報告書に記されていた社名や人名を反芻して、ようやく気付いた。

天花寺の新しい当主となった恭匡が、来春から就職する予定の会社の主要取引先だ。



……なるほど。



電話をかけようとして……水音が止まったことに気づき、手を止めた。



至上の時間に……無粋だな。




要人は、短いメールを返信するのみにとどめた。




程なく領子が戻って来た。

その顔が少し強張っていた。


「どうされました?」


笑顔で尋ねる要人に、領子は不安そうに尋ねた。


「つかぬことを聞きますけど……兄の血を引く御子は、恭匡さんだけでしょうか。」


要人は一瞬キョトンとして、それから、にやりといたずらっ子のように笑った。

「さて。どうでしょうね。少なくともお付き合いと呼べる程度に関係が続いておられたかたには、該当するお子さんはおられないはずですが、……私は恭風さまの女性関係の全てを存じ上げているわけではありませんから、何とも……。」


「嘘。お兄さまは竹原に何もかも頼りっきりでしたじゃありませんか。……お心当たりは、ありませんの?」



要人は肩をすくめて見せた。

「ありません。……しかし……10年、20年後に、ひょっこりと御落胤が現れないとも限りませんね。俺は領子さまのストーカーであることは否定いたしませんが、恭風さまのプライベートまでは存じ上げてませんでしたので。」

「まあ……、竹原、おもしろがってらっしゃるの?」

「……失礼いたしました。……いや……たしかに、それはそれで、楽しみではありますね……。」




さすがというか、なんというか……
呆れるわ。


領子は、息をついて、苦笑した。




要人自身も、その息子の義人もまた、未来永劫戸籍に記載されることのない婚外子がいる。

そして、領子自身も、当時の夫を裏切り、別の男の子供を産んだのだ。


後悔はないが、誇れることではない。

ましてや、婚外子がいるかもしれないとおもしろがることなんて、とてもできない。



……どれだけ、愛していても……やっぱり、理解できないわ。


領子は、改めて、目の前の最愛の男を見つめた。



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