いつも、雨
一夫は黙ってじっと要人を見ていた。
小さいけれど鋭い眼光を、要人は微笑で交わした。
しばらくして、一夫は小さくため息をついた。
そして、小さな声でつぶやいた。
「……それでも……領子のこと……どうか、頼みます。」
要人は目を伏せて、黙ってうなずいてから顔を上げ、ハッキリとした口調で言った。
「これまで通り主従としても、姻戚としても、出来うる限りの支援をお約束いたします。しかし、領子さまは、私を頼られることはないでしょう。ですから、領子さまのために、一夫くんには、意地でも、生き抜いて欲しい。」
言葉の応酬は、まるで平行線のままだった。
しかし、何故か、当事者2人は満足していた。
いかに領子を愛しているか……そして、いかに互いの存在を認めているか……。
それぞれが再確認し、妙に納得していた。
短い会談の後、一夫は後顧の憂いなく手術と治療に立ち向かう力を得た。
身体が癌にむしばまれているのに、心は強く勇ましくなれた。
いっぽう一夫の病室を出た要人の胸には重く暗い影が立ちこめた。
どんなに策を弄しても、愛を訴えても、領子は要人のものにはならない。
当たり前だ。
愚直でも大きな愛情を惜しみなくたっぷり注ぐ一夫くんに、俺は……結局、敵わない。
たとえ一夫くんが癌で死んでしまっても、領子さまは、俺のものにはならないだろう。
俺にできることは、ただ……一夫くんの回復を待つことだけなのか……。
くっ……と、自虐的な笑いがこみ上げてきた。
と、同時に目頭が熱くなり……視界が揺れた。
領子を横からかっさらった憎い恋敵のはずなのに、一夫の死を願う気持ちはこれっぽっちもなかった。
かなうことなら、酒を酌み交わして語らいたい……そんな好ましい人物を、このまま失いたくはなかった。
「……社長……。」
ためらいがちに、秘書の原が声をかけた。
要人は、ゆらりと頭を上げた。
「どうすれば、癌は、完治する?」
潤んだ瞳から目をそらし、原は敢えて淡々と答えた。
小さいけれど鋭い眼光を、要人は微笑で交わした。
しばらくして、一夫は小さくため息をついた。
そして、小さな声でつぶやいた。
「……それでも……領子のこと……どうか、頼みます。」
要人は目を伏せて、黙ってうなずいてから顔を上げ、ハッキリとした口調で言った。
「これまで通り主従としても、姻戚としても、出来うる限りの支援をお約束いたします。しかし、領子さまは、私を頼られることはないでしょう。ですから、領子さまのために、一夫くんには、意地でも、生き抜いて欲しい。」
言葉の応酬は、まるで平行線のままだった。
しかし、何故か、当事者2人は満足していた。
いかに領子を愛しているか……そして、いかに互いの存在を認めているか……。
それぞれが再確認し、妙に納得していた。
短い会談の後、一夫は後顧の憂いなく手術と治療に立ち向かう力を得た。
身体が癌にむしばまれているのに、心は強く勇ましくなれた。
いっぽう一夫の病室を出た要人の胸には重く暗い影が立ちこめた。
どんなに策を弄しても、愛を訴えても、領子は要人のものにはならない。
当たり前だ。
愚直でも大きな愛情を惜しみなくたっぷり注ぐ一夫くんに、俺は……結局、敵わない。
たとえ一夫くんが癌で死んでしまっても、領子さまは、俺のものにはならないだろう。
俺にできることは、ただ……一夫くんの回復を待つことだけなのか……。
くっ……と、自虐的な笑いがこみ上げてきた。
と、同時に目頭が熱くなり……視界が揺れた。
領子を横からかっさらった憎い恋敵のはずなのに、一夫の死を願う気持ちはこれっぽっちもなかった。
かなうことなら、酒を酌み交わして語らいたい……そんな好ましい人物を、このまま失いたくはなかった。
「……社長……。」
ためらいがちに、秘書の原が声をかけた。
要人は、ゆらりと頭を上げた。
「どうすれば、癌は、完治する?」
潤んだ瞳から目をそらし、原は敢えて淡々と答えた。