いつも、雨
男色は貴族の嗜み……。


恭風(やすかぜ)は、色白の、もっちりとした肌をしていて……子方として能舞台に立っていたせいか、華が合った。

そのため、昔から、かわいい男の子を好むおじさんに可愛がられてきた。


恭風本人は、決してゲイではない。

男でも、女でも、ともに楽しめるのならどちらでもいい、らしい。


これまでは、誰に対しても、あまり執着はなかった。


だが、同い年なのに何でもできる要人(かなと)のことは、特別だ。

恭風の中の、愛したい欲望も、愛されたい欲求も、要人にだけはビンビンに反応してしまう。


もちろん、要人も恭風の気持ちには気づいている。

しかしまだ要人には同性との経験はないので、積極的にその気持ちに応えようとはしていない。


ただ……強く迫られることがあるとすれば、拒絶はしないだろう。

現在の要人にとって、性的なコミュニケーションは、しょせんその程度のものでしかない。


背後に感じる領子(えりこ)の視線ほどに心を震わせるものはない……。






「……橘の千歳(ちとせ)さま。……真面目そうな……誠実なかたのようですね。」

敢えて、要人はそんなことを呟いた。

ともすれば領子にほとばしる己の恋慕を戒めるように……。


振り返らなくても、領子がビクッと震えたのがわかった。



……意地悪だわ……。

領子は唇を噛んで、要人の背中を睨んだ。


せっかく、貴重な2人だけの時間なのに……どうして、そんな無粋な名前を出すのだろう。



橘千歳は、領子が生まれる前から、家同士で結婚を決めている、言わば婚約者だ。

天花寺(てんげいじ)家とはまるで違う、裕福で厳格な家で幼少期から高等教育を施されている千歳は、要人の言う通り、いたって真面目な男……だと思う。

年は領子より1つ年上だが、同じ学習院の初等科に通っていると、いろんな噂が聞こえてくる。

千歳は、成績のいい朴念仁。

女子が苦手らしく、いつも男子とつるんでいる。

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