いつも、雨
「いえ。ケースバイケースですが、長期間というよりは、日帰りや1泊入院を何度も繰り返すことが多いと思われます。半年、長ければ一年間、月に一度の通院が、場合によっては数年続くこともありましょうし、一旦は終了しても、数年後にまた治療を再開することも考えられます。……すべては、橘さまのお身体次第かと……。」


無意識に、要人はため息をついた。

これから始まる領子なしの日々を思うと、とても平静ではいられそうもなかった。




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一夫の手術は無事に終わった。

大腸に巣くった癌は、少しも残すことなく綺麗さっぱり取り除かれた。

転移した肝臓の癌は、結局、抗癌剤で様子を見ることになった。



大腸の一部を切除したのに、一夫はすぐに食欲を取り戻し、以前と寸分違わぬ食生活を、これまで以上に楽しみ始めた。

さすがに抗癌剤の投与が始まると、手が震え、少し髪が抜け、ぐったりする日もあったが、なぜか食欲と性欲は衰えなかったようだ。


役に立たないながらも献身的に一夫のそばから離れない最愛の妻に甘え、甘やかし、戯れて日々を過ごした。

たまに現場に顔を出すときにも、領子は一夫の半身のように、離れなかった。

はたから見れば、領子のほうが病気のようにやつれ青白い顔をしていた。




「……おいたわしい……。」

2人が外出するたびに、要人のもとには写真付きの報告書が届けられた。



「橘さまの治療のほうは順調に効果をあげているようです。このままこの方針で続けられて、様子を見ることになりそうですね。」

なぜか、病院からの報告書も、優秀な秘書によって手配されていた。


「そうか。よかった。」

心からの想いを淡々とつぶやいて、要人は窓の外を見た。


さっきまで晴れていたのに、雨が降り出したようだ。


つられて窓を見た秘書の原が、ふっと微笑んだ。


「まるで社長のようですね。」

「……別に、泣いてないが……。」

要人は多少ムスッとした。


原は肩をすくめた。

「いえ、そうではなく……今日は7月7日。また、牽牛と織女は会えませんね。ちょうど梅雨時とはいえ、こう雨の確率が高いと、気の毒ですね。……せめて、お慰めのお花にお手紙を添えて送られてはいかかですか?」

「……珍しくロマンティックなことを言い出すと思ったが……現実的なアドバイスだったな。しかし、手紙はまずいだろ。」


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