いつも、雨
誰の目から見てもとびっきりの美人の領子は、同学年の男子からのみならず、上級生からもモテる。


ある時には、千歳のお友達が領子に告白してきたことがあった。

あろうことか、千歳は平然とその様子を見ていた。

領子はいつも通りキッパリ断わったが……千歳は無反応、無表情のまま……いや、むしろ傷ついた友人を慰めてすらいた……。


ハッキリ言って、領子には千歳というヒトがよくわからない。

少なくとも、他の、自分に告白してくるような男子が向けてくるような、恋心や下心を感じたことがない。

嫌われている……とは思わないのだが……自分に対して興味がないのかもしれない……。


もしかしたら、婚約なんていうのは、ただの家同士の希望のようなもので、本当は何も決まっていないのかもしれない。

いずれ千歳が他の女性とおつきあいを始めたら……婚約なんてなかったことになるのかもしれない。


だって、今時、そんな……本人同士の気持ちを無視して婚約とか……おかしいもの。

そうだわ、そうに決まっているわ。


最近では、領子は楽観的に思うようになっていた。




が、夕べの通夜に、千歳は橘のご両親と、小さな妹さんと共にやって来た。

会葬者席ではなく、親類席に座った一行に、領子の中に冷たい大きな石のようなものがずーんとどこからか落ちてきて鎮座してしまった。


……だんだん、お腹がしくしくと痛くなってきた……。

痛い……。



無意識に前のめりになっていく領子に気づいたのは、婚約者の千歳でも、兄の恭風でも、両親でもなく……受付席を手伝っていた要人だった。

「あの……領子さまのご様子がおかしいのですが……」

葬儀社のヒトにそう伝えても、取り合ってもらえなかった。


「大好きなおばあさまを亡くされて、お悲しみに暮れてらっしゃるのでしょう。」

「泣いてるみたいですねえ。」


何人もにスルーされ、埒があかないので、要人は恭風を手招きして、わざわざ呼び出して、領子の不調を訴えた。


恭風は半信半疑で戻ったが、領子の顔色が真っ青で、脂汗を流して居ることにようやく、ただ事ではないことに気づいた。


僧の読経の途中だったが、領子は退席した。

紺色のスカートの一部に濡れたようにシミができている。



あ……もしかして……。

こんなタイミングで初潮を迎えたんじゃないか!?

かわいそうに……。
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