いつも、雨
一生、言葉にするつもりのなかった想いを、要人は口にした。

「仰る通りです。百合子は、私の娘です。とは言っても、父親として、何もしてやることはできない立場ですが、娘の幸せを願っています。百合子には、夫も、かわいい子供たちもいます。天花寺家という名家に入り、社会的立場もあります。それら全てを、あなたが理解し、守ってくださるのなら、私はあなたとの関係を咎めるつもりはありません。むしろ、百合子を、よろしくお願いします。」


「竹原!?」

「何……仰ってるの?……信じられない……。」



領子と百合子の非難を一身に受け、要人は多少たじろいだ。

同時に、想像した。

もしあの時……領子と再婚できていたならば、こんな風に2人の姫君に苛まれる日常もあったのだろうか……と。


甘酸っぱい感傷を振り払って、要人は腕の中で自分を見上げる領子に微笑んで見せた。

「でも、領子さま?しょーりくんと百合子さまは、年齢は確か10歳違うはずなのに、対等でいらっしゃる。実によい関係とお見受けいたしました。」



領子は口をつぐんで、そっと要人から離れた。


……対等……。

確かに、2人の間に遠慮や上下関係は感じなかった。




へっ……と、泉が照れ隠しに笑った。

「対等、ねえ。……どやろ。なんだかんだゆーて、俺が振り回されてるけどな。」


「嘘!泉さんのワガママにさんざん振り回されてるのは、わたくしですわ。」


なるほど、百合子は泉に対しては、別人のように活き活きして饒舌のようだ。



「……いつから……」

力なく領子が馴れ初めを尋ねようとした。


「ああ。そやった。社長……やない、オヤジさんにもさっき聞かれたな。あれ、いつやった?新幹線で着物やったなあ。10年……もっとけ?」

泉は百合子に確認を取った。


百合子も渋々答えた。

「恭匡さんと由未さんがご結婚なさってすぐの冬でしたわ。ですから、もう12年かしら。」


「そんなに前から!?」


驚く領子に、百合子は顔を歪めるような表情を見せた。

「ですから、お母さまの考えてらっしゃるような一時的な浮ついた遊び心で泉さんとお会いしているのではありません。わたくしたちにはわたくしたちの事情がありますの。ご心配なさらなくとも、オトナですから。大丈夫ですわ。」


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