いつも、雨
たぶん、まだ、領子さまご本人も気づいてないだろう……。

コンビニかドラッグストアで生理用品を買ってくるか。

いや、スカートもあのままでは……。



舌打ちしたい気持ちを隠して、すぐにキタさんに相談した。

キタさんは大慌てで、タクシーで天花寺邸へ戻って、紙袋を抱えて帰って来た。



控え室から領子が戻ってきたとき、既に僧侶の読経も、会葬者の焼香も終わって、喪主の挨拶が始まっていた。

領子は蒼白な顔で、うつむいていた。

膝の上の両手が震えているのが……切なかった……。



「……さすがに、このタイミングでは、お赤飯というわけにもいきませんわね。」

要人の側にやって来たキタさんは、残念そうに小声で言った。


「ありがとうございます。ご足労おかけしました。……領子さまは……まだ、おつらそうですが……。」

「ええ。腹痛もあるようですけど……ショックが大きいご様子ですわ。無理もありませんわね……婚約者の千歳さまも、何事かとご心配されてました……。」

「……え……彼にバレたんですか?……それは……。」

何てこった……。

プライドの高い領子のこと……死にたいぐらい屈辱を感じているのではないだろうか。

かわいそうに……。



せめて、要人は、自分は何も気づかないふりをしようと思った。

でも、無駄だった。


領子は、視線を向けなくても、顔を背けていても……常に、要人を心で追っている……。

自分の不調に最初に気づいたのは要人だと、すぐにわかった。

兄が退座したのも、要人のもとに行ったのも、見なくてもわかった。


そして、ねえやが生理用品と、洗い替えの制服のスカートを持って来てくれたのも……要人の差し金に違いない……。

泣きたい……。


大好きな要人に、初潮でスカートを汚したことを心配されたなんて……悲しすぎる……。

穴があったら入りたい。


そんな想いで震えていたが……、ちょうど、自分の焼香を終えた母が、控え室にやって来た。

ねえやから領子が初潮を迎えたことを聞くと、母は

「まあ……」

と、目を見開いた後、ふふっとやらしい笑みを浮かべた。

続いて母の口から出て来た言葉に、領子は戦慄した。

「おめでとう。これで領子さんも、オトナの女性ですわね。……橘さまと結納の時期をご相談いたしましょうね。」


……。

領子の両目からボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
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