いつも、雨
「ええ。折角ですから、ご一緒に古いお守りをお納めして、新しいお守りを授与していただこうと思いまして。」

要人は、そう言って、懐から古ぼけたお守りを取り出した。


初めて結ばれた翌日、縁結びのお守りを買うには買ったが、周囲にバレるのが怖くて……別の錦のお守り袋に入れ直した。

離ればなれになっても、互いに別の人と結婚しても、縁結びのお守りを捨てることはできなかった。


それは領子も同じだ。

夫の手前、外袋を何度も替えてカモフラージュしながらも、要人とのご縁を願うお守りを肌身離さず持ち続けていた。



「新しいお守りって……」

まさか、健康長寿とかじゃないわよね?


聞くまでもない。


要人は、黙って力強くうなずいて見せた。


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夏の貴船は、京都人にとって身近な避暑地の一つだ。

午後の中途半端な時間でも、観光客や参拝客が途切れずに歩いていた。



「こっちは降ってないようですね。……少し、歩きましょうか。」


これまでなら人目につかないように車で行動していたのに、要人は敢えてオープンに振る舞った。


……うれしいわ。

こうして、竹原と手を繋いで外を歩くのは、どれぐらいぶりかしら。

ふふ……。


こんなおじいちゃんとおばあちゃんだもの……手を繋いでいたって、イチャイチャしてるんじゃなくて、お互いに支え合ってる老老介護にしか見えないかもしれないわね。


……長い年月を寄り添って生きてきた……夫婦に見えるかしら……。


あら。

熟年夫婦が、今さら、縁結びのお守りを求めるのって、おかしいわね。


不倫ってバレちゃうかしら。




わくわくそわそわしている領子は、やはりかつての少女のままで……要人は、領子がつまづかないよう、足元に気を配りながら歩いた。


「……昇殿しましょうか。」

「え……。」


要人が何を言っているのかよくわからず、領子は首を傾げた。


「……結婚式、というわけではありませんが……神様に、幾久しい縁結びをお願いしましょう。」


やっと意味を理解して、領子はこくこくと何度もうなずいた。

その瞳にみるみる涙が溢れる。


たまらず、要人は領子を抱き寄せた。

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