いつも、雨
「結婚式と偽ってしまいたい。」

掛け値なしの本音を、ついこぼしてしまった。


領子の胸が罪悪感に疼いた。

「……嘘をついては……神様が、怒りますわ。」

そう言ってみたものの、領子は矛盾に気づいた。

「おかしいわね。竹原と再婚するために、主人は離婚すると言ってくださってるのに、わたくしは拒否したのよ。……なのに、こうして、竹原との縁結びの御守りを持っていて……これから新調しようとしてるなんて。いったいどっちなんだ、って、神様も混乱されますわね。」


要人は、ふっとほほえんだ。

「神様も呆れてらっしゃるだろうな。とっくに。……悪縁を絶ちきり良縁を結ぶ……何度、安井金比羅宮にお参りしても、何も変わらなかったでしょう?……墓までお供しますよ。」


「あら。倶会一処?それなら、神社じゃなくて、お寺じゃなくて?」


領子の言うとおりだ。


「そうですね。近いうちに、寺にも参りましょうか。……とりあえず、今日は、現世で離れないよう、神様にすがりましょう」


要人はそう言って、社務所へと向かった。



縁結びのご祈祷を申し込み、他の参拝者とともに案内されて昇殿する。

厳かにお祓いを受け、祝詞を聞き、玉串を捧げて参拝した。





「……若い人ばかり……というわけでもなかったですわね。」

車に戻ってから、領子はほっとしたようにつぶやいた。


「そりゃあそうでしょう。外国人も多いみたいですよ。……どうぞ。新しい御守りです。」


お下がりの袋から、要人は新しい御守りを差し出した。



ピンクの袋には十二単の女人が、水色の袋には狩衣の男が刺繍されていた。


領子は2体とも大切に受け取ると、しげしげと眺めた。


「……昔と、変わったかしら?……こんな感じでしたか?」


「変わりましたね。50年以上たてば、そりゃあ変わるでしょう。……昔は『縁結び』という文字が入っていましたか……。」


見れば、手の中の御守りには、「むすび守」と刺繍されている。

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