いつも、雨
いつまでたっても黙って困っている領子に、要人はため息をついた。


ビクリと、領子の肩が揺れた。

要人に呆れられたかもしれないと思うと……領子は、とてもいたたまれなかった。

領子は、意を決して口を開いた。

「そばに居てほしい!ずっと!」

うそ偽りない本音を言えた……。

領子は、ちゃんと返事できたと、ホッとした。


でも、要人は冷たく薄く笑った。


……ゾクッとした。


要人は、領子をじっと見て、それから両肘を座卓につけ、組んだ指の上に顎を乗っけて……領子の顔を覗き込んだ。

ものすっごく意地悪な顔と声で、要人は領子に尋ねた。

「領子さまが嫁ぐ時に、花嫁道具として随行しろってこと?……専用の運転手にでもなれば、満足ですか?」



領子の胸に鋭い痛みが走った。

……ひどい……。

ううん。

ひどいのは……この関係だ……。

この歪んだ、家同士の関係。

生まれる前から分け隔てられた……前世紀の主従関係。

どうして、そんなものを後生大事にしてるのだろう。

関係ないのに。

何も、義務はないはずなのに……。


「わたくしは、お兄ちゃんを……要人さまを……お慕いしています。……どうか、そんな意地悪をおっしゃらないでください。どうか……対等に……扱ってください。」


領子が自分の言葉で一生懸命伝えようとしていることに、要人はある種の感動を覚えていた。

小さかった女の子が、背伸びをしていた女の子が……恋をしている……。


要人は、そっと手を伸ばして……領子の白い頬をつたう涙を指で払った。


領子は目を閉じた。

涙で濡れた睫毛が美しい。


「……対等も何も、俺自身より、領子さまのほうが大事なんやけどな。せやから、イジメてるんじゃなくて……領子さまの想いが知りたい。どんな形でも、望み通りにしてあげたいから。……考えてみて。どうしたいか。具体的に、俺に、何をしてほしいのか。」

要人はそう言って、領子の頭をそっと撫でた。


領子は、頬を染めてから……ハッと気づいたように、慌てて頬を膨らませて見せた。

「子供扱いしないで!」


そんな風に怒ること自体が子供っぽくてかわいかったけれど、要人はゆっくりとかぶりをふった。

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