いつも、雨
「もう子供なんて思ってへんわ。……べつに、俺、ロリコンちゃうし。」


領子(えりこ)の眉毛がぴくりと上がった。

……そんなこと、わかってるわ。

いちいち言われなくても、知ってる。

要人(かなと)が綺麗な女性と一緒にいるところを見かけたこともある。

要人宛の手紙やプレゼントが天花寺家に届くこともあるし、バレンタインデーには夥しい数のチョコレートをもらっていることも知っている。

特定のカノジョはいなくても、遊び相手には困ってない……というよりモテすぎて困っているようだ。


領子は、憮然として……そして、言った。

「はい!他の女の人とつきあわないでほしい。遊びも、嫌。」


要人は、眉をひそめて見せた。

「……男ならいいってこと?」

「う……それは……。」

領子は、即答できなかった。


確かに女よりはマシかもしれないけれど……いやいや!やっぱり、嫌!


無意識に口を尖らせている領子をからかうように、要人は言った。

「オッケー。ほな、男か風俗にしとくわ。」

「……やだ。」

領子は、ポロポロと新しい涙をこぼした。


要人は苦笑した。


……本当に……イケズゆーてるつもりはないんやけどな……。

もちろん、イジメて、泣かせて、満足しているわけでもない。


無意識に、要人は領子を追い込んでいた。


俺を選べ、と。

俺のために、何もかも捨てろ。

俺を捕まえていろ。


……本当は、そう言いたくて……でも、とても言えなくて……。

そんなジレンマが、要人を策士にするのかもしれない。



領子は歳以上に狡猾な男に翻弄され、正常な判断力を失った。

それこそが恋そのものだと知らないまま……操られるように言った。


「わたくし以外のかたに、触れないで。」



要人は大仰に肩をすくめて見せた。

「……て、言われても……」


「他のかたに費やす時間も、お心も、わたくしに……ください。」

領子はそう言って、すっくと立ち上がった。


ちらっと、雪見障子を見る。

しっかりと降る雨で、靄が立ち上がり、視界がかなり悪い。

今日のところは見張るのを諦めたのか……、大丈夫だろうと安心したのか……。


……どちらでもいいわ。

見つかってもいい。


そんな気持ちで、領子は要人のすぐ隣に座った。
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