いつも、雨
「他のかたにしてきたこと、これからはわたくしだけに、してください。」

震える声でそう言って、領子は要人にしなだれかかった。


ふわりと、イイ香りが要人の鼻孔をくすぐる。

……この香りだ……。

いつも領子から感じる、やわらかい、心地よい香り。


ずっと、こうして……そばにいてほしいのは、俺のほうだ。



要人の中の理性の鎖がきしんでいる。

領子への激情が、鎖を断ち切りたいと、騒ぎ始めた。


まだ、ダメだ……。

相手は、中学生になったばかりなのに……。


要人は両手の拳を知らず知らずのうちに握りしめていた。

爪が食い込む痛みよりも、鼓動の激しさよりも……領子の熱と香りが要人を支配する。



要人は、息をついて……くるりと雪見障子に背中を向けて座り直した。

肩に寄りかかっていた領子は、突然支えを失ってよろけた。

きゃっ……と、小さな悲鳴。


「しっ。」

要人はかすかな声でたしなめながら、領子の両脇を持って抱き寄せた。


突如、要人の胸にかき抱かれて、領子は、うれしいより、混乱した。


え!?

なに!?

どうして!?

これ……え?え?……え~~~!?

抱かれてるの!?

え!?

キャッ!

嘘!?

ギュッ……て……背中、ギュッて……抱きしめられてるっ!?

きゃ~~~~~~~~っ!!!!



声に出さずにじたばたしている領子に、要人は苦笑した。


……やっぱり、このまま押し倒すのは……かわいそう……か。



要人は領子の背中を優しく撫でて、それから至近距離で綺麗な瞳を覗き込んだ。

領子は、うっとりと要人を見上げていた。


……ちゃんと、女の表情してる……。


要人が気遣う以上に、領子は子供ではないのかもしれない。

少なくとも、愛情を注げば、溺れて、用意された順風満帆な人生を投げ捨ててしまう程度には、怖いもの知らずの乙女に育ったようだ。


要人は表情を引き締めて、領子の耳許に唇を寄せて囁いた。

「約束して。」


「……約束?なぁに?」

ただ抱きしめるだけで、領子はこれまで以上に要人に甘えた声を出すようになった。



わかりやすすぎる。

これじゃ、無理だ。

< 68 / 666 >

この作品をシェア

pagetop