いつも、雨
その日も、いや、それからも恭風と遊びに出る度に、要人は領子にお土産を持って帰って来てくれた。

タンポポだったり、ユキヤナギだったり、マンギョウだったり、梅の枝だったり、白い小石だったり……本当にその辺にあるものばかりだったけれど、領子はその都度、笑顔を見せた。


要人は、いつも取り澄ましたおしゃまな幼女が、自分にだけニコーッと好いたらしい笑顔を向けることがうれしくて、毎日腐心した。





お庭の枝垂れ桜が咲き始めると、祖母は毎日、来客を招いた。

親しい友人との昼食会、お茶会を繰り返し、今年も立派に咲き誇った銘木を心の底から愛でた。


恭風も立派にお点前をして見せて、お客さまをもてなした。

領子はまだ小さすぎて、お手伝いをさせてもらうことはできなかったけれど、お客さまの素敵な装いを見るのは楽しかった。





楽しい日々はすぐに過ぎてしまう。

恭風の始業式の前日、ねえやは最後の荷造りを終えて、大奥様にご挨拶をした。

「淋しくなりますね。……いっそ、キタさん、あなただけでも、こちらに……京都にいらっしゃらない?」

東京本宅ではついぞ呼ばれることのなくなった旧姓で呼ばれて、ねえやは泣きそうになった。

「……とてもありがたいお申し出なのですが……奥様にご恩返しのつもりでご奉公いたしておりますので……。」

「そう。まあ、また月末には、あなたもいらっしゃるのでしょう?楽しみにしてますよ。……孫たちを、よろしくお願いします。……あら、雨……。」

庭を見上げた大奥様は、祖母の顔で庭を見渡した。

「……さっきお庭に領子さんがいらっしゃったんですけれど……大丈夫かしら。」


「四阿(あずまや)で雨宿りされているかもしれませんね。お迎えに行って参りますわ。失礼いたします。」

ねえやは大奥様のもとを辞去した。



領子は、四阿には居なかった。

今を盛りと咲き誇る美しい枝垂れ桜の下にうずくまっていた。


せっかくお気に入りの白いワンピースを着たのに、降り出した雨に慌てて転んで汚してしまった。

……せっかく……最後に、見せようと思ったのに……。


しょんぼりとうつむいていると、上から声が降ってきた。


「領子さま?どうしたの?……雨宿り?」


見上げると、少し前髪を濡らした要人が領子を見ていた。
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