いつも、雨
驚く要人の前で、領子はポロポロと涙をこぼした。

とても綺麗な涙だった。


要人は、領子の頭部を覆った自分のシャツの袖を引っ張って、涙を拭いてあげようとした。

ずるりと、シャツが滑り落ちた。

「おっと!ごめん!」

シャツが地面に落ちる前に、要人は屈んでキャッチした。

そして、見つけてしまった。

領子の白いスカートが土で汚れているのを。


……なるほど……それで泣いてたのか……。

要人は、わざと手をピシャリと地面に跳ねさせた。

「あ!ごめん!……どうしよう。領子さまのスカート、汚してしもた。」

「え……。」

驚いて、顔を上げた。


「ごめんな!すぐ洗って乾かしたら大丈夫!行こう!」

そう言って、要人はしゃがんだまま背中を領子に向けた。


意味がわからず、領子は涙目でじっとしていた。


「乗って。濡れるからもっぺんこのシャツ被ってて。」

「……え……。」


絶句して固まっている領子を、半ば強引に要人は背負った。

そして、有無を言わさずに立ち上がって、枝垂れ桜の暖簾をくぐると、屋敷に向かって早足で歩いた。


領子はシャツをかぶって、桜の枝を握りしめて……緊張していた。

素肌……。

要人の背中は、つるんとしていて、すべすべで……そっと頬を寄せると、気持ち良かった。



「お嬢さまーっ!」

遠くのほうで、ねえやが領子を呼んでいる声がする。


「げ。探してはる。どうする?返事する?……先に、スカート、洗う?」

振り返った要人に、至近距離でそう聞かれて……領子はドキドキした。


目つきの鋭さが印象的ではあるものの、要人は整ったイケメンだ。


綺麗なお顔……。

もう少し、こうして……お兄ちゃんを独り占めしていたい……。


「洗って。」



……くっ……と、要人はこみ上げる笑いに、こっそり頬を緩めた。



濡れねずみでも、涙目でも、卑屈さを微塵を感じさせず、6つも年上の俺をこき使う領子さま。


たまらないな……。

かわいい。

愛しい。

……どれも当てはまるけれど、少し違う。

尊い。

大切。

……なんて、言ったらいいのかな……。


形容しがたい不思議な感情を楽しみながら、要人は領子の白いスカートを丁寧に洗い、ドライヤーで乾かした。
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