いつも、雨
橘千秋氏は、今週も過分な「御仏前」を入れた不祝儀袋を置いて帰った。
天花寺夫人はいそいそと回収した。
「……まあ、こんなに……。ありがたいことですわ。……ね、領子さん。」
満面の笑みで、夫人は娘に言った。
「そうそう、結納の日取りですけどね、9月の最初の土曜日が大安なんですって。お仲人さまも午前中は大丈夫とのことですから、そのつもりで。……まだ暑いからお振袖、大変でしょうけど……。」
「お母さま!?」
何!?それ!
聞いてない!
いえ……まったく聞いてないことはなかったけれど……まだまだ、ずっと先のことだと思っていたのに……。
「へえ。四十九日の法要の翌々日やないですか。えらい急ぎますなあ。……そないに急がんでも、相続税の納入期限は10ヶ月ありますのに。」
恭風も寝耳に水だったらしい。
領子は、兄の言葉にも傷ついた。
……結納の話がそのまま納税と直結するなんて……ひどい……。
まるで借金のかたに売られるようなものだ。
不満そうに唇を噛んでうつむく領子を、母が叱った。
「まあ、なんてお顔。お行儀が悪くてよ。……別によろしいじゃありませんか。結納が早まるだけで、すぐに結婚するわけではありませんし。……もっとも、橘さまは、領子さんさえよろしければ、千歳さまの大学受験が終わったら、橘家に迎えたいと仰ってくださってましたけれど。……本当に、領子さんは、幸せねえ。こんなに望んでいただけるなんて。」
母の脳天気な言葉を聞くに堪えず、領子はすっくと立ち上がった。
「……失礼しますわ。わたくし、今日も、お勉強がありますので。」
「あらあら。夏休みなのに、熱心ね。……本当にねえ……わたくしは女性に学問なんて必要ないと思っていましたけれど……あなたのお父さまが仰ってらした通り、竹原に見てもらってよかったわ。橘さまが、領子さんの成績まで気にかけてらっしゃるなんて、思いも寄りませんでしたわ。……もしかして、大学受験も考えたほうがいいのかしら?」
「……受験するなら、勉強時間を増やさないといけませんね。竹原にお願いしてみますわ。」
それだけ言い置いて、領子は仏間から出た。
天花寺夫人はいそいそと回収した。
「……まあ、こんなに……。ありがたいことですわ。……ね、領子さん。」
満面の笑みで、夫人は娘に言った。
「そうそう、結納の日取りですけどね、9月の最初の土曜日が大安なんですって。お仲人さまも午前中は大丈夫とのことですから、そのつもりで。……まだ暑いからお振袖、大変でしょうけど……。」
「お母さま!?」
何!?それ!
聞いてない!
いえ……まったく聞いてないことはなかったけれど……まだまだ、ずっと先のことだと思っていたのに……。
「へえ。四十九日の法要の翌々日やないですか。えらい急ぎますなあ。……そないに急がんでも、相続税の納入期限は10ヶ月ありますのに。」
恭風も寝耳に水だったらしい。
領子は、兄の言葉にも傷ついた。
……結納の話がそのまま納税と直結するなんて……ひどい……。
まるで借金のかたに売られるようなものだ。
不満そうに唇を噛んでうつむく領子を、母が叱った。
「まあ、なんてお顔。お行儀が悪くてよ。……別によろしいじゃありませんか。結納が早まるだけで、すぐに結婚するわけではありませんし。……もっとも、橘さまは、領子さんさえよろしければ、千歳さまの大学受験が終わったら、橘家に迎えたいと仰ってくださってましたけれど。……本当に、領子さんは、幸せねえ。こんなに望んでいただけるなんて。」
母の脳天気な言葉を聞くに堪えず、領子はすっくと立ち上がった。
「……失礼しますわ。わたくし、今日も、お勉強がありますので。」
「あらあら。夏休みなのに、熱心ね。……本当にねえ……わたくしは女性に学問なんて必要ないと思っていましたけれど……あなたのお父さまが仰ってらした通り、竹原に見てもらってよかったわ。橘さまが、領子さんの成績まで気にかけてらっしゃるなんて、思いも寄りませんでしたわ。……もしかして、大学受験も考えたほうがいいのかしら?」
「……受験するなら、勉強時間を増やさないといけませんね。竹原にお願いしてみますわ。」
それだけ言い置いて、領子は仏間から出た。