君の声が、僕を呼ぶまで
「塾があるからなぁ。こう見えて、大学受験が視野に入ってきた3年生は大変なんですヨ。沙羅が羨ましいわ~」


…じゃあ、部活に顔出しになんて来なきゃいいのに。


おどけた声音で沙羅に返事をする冬島先輩の顔が視界の隅に入り、私は黒く重たく淀んだ腹の奥底で、軽く舌打ちをした。



「植木さん、どーしたの?」

「うっ・・わぁ!?」

「ビ、ビックリしたぁ…」

「それはこっちの台詞ですっ」


心の中で舌打ちしたつもりが、表に出てしまっていたのだろうかと、一瞬焦った。

けれど、冬島先輩が覗きこんできていて、異常に顔が近い事の方に、もっと驚いて焦る。


予定外に驚きすぎてしまったので、私はカゴの中に溜まっていた軟式ボールを、勢いよく散らばしてしまった。
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