君の声が、僕を呼ぶまで
保健室のドアの前に立つ。

お母さんがノックをする。

私はギュッと目を瞑る。


「どうぞー」

中から聞こえてきたのは、思ったよりも若い男の人の声。


そんな若い先生で大丈夫なのかな…

今思えば、本当に失礼だったと思う。

藁をもすがる想いで、自分からここに来たというのに。


「初めまして。塚原雪人です」

そう言いながら柔らかく笑った先生に、私は心を奪われた。


…だなんて、簡単にいくほど、私の心の闇は浅くない。


ジットリとした疑うような目で先生を見る。

その分かりやすいほどに、敵意を含んだ視線を浴びながらも、先生は柔らかく笑っていた。


次の日も、一方的に仕掛ける根競べ。

私の敵意は、警戒心へと変わっていく。


その次に会った日は、偉そうに品定め。


毎日、その報告をサラにする。

「ねぇ、サラ。あの塚原っていう先生、ただずっと窓際の椅子に座ってるの」

何を聞くでもなく、何を言うでもなく。
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