君の声が、僕を呼ぶまで
そして迎えた、本当の入学式当日。


私は、1人、中庭にいた。

何となく、先生の変わらない笑顔と同じ空間にいる事が、窮屈だと思った。


先生は入学式の準備で席を外していたので、私は保健室を悠々自適に独り占めしていたのだけれど、窓から見える中庭の景色に惹かれ、導かれるように外へ出た。


咲き誇っている、満開の桜。

強かに佇む幹に、そっと触れてみる。

指先から伝わる、春の樹の息遣い。


そういえば、1人で保健室の外へ出たのは初めてだ。

いつも、窓から見ていたはずの桜の木が、やけに新鮮に見えるのは、そのせいだろうか。


ふと、先ほどのなだらかな自然の息遣いとは違う、小さな声が聞こえた。

大きな生命力の塊である桜の樹の根元に目をやると、羽に怪我を負った雛鳥が、弱々しくうずくまっている。

「どうしたの?」

私はサラに話しかけるのと同じように、その雛鳥に話しかけた。

「…そう、巣から落ちて、お母さんに見捨てられてしまったのね」


どうしよう。

家まで連れて帰って…

でも今すぐには帰れない。
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