君の声が、僕を呼ぶまで
この差し出されたハンカチに、どう対応したらいいんだろう。

受け取る…雛鳥のために早く受け取りたい。

何より、早くこの状況から脱したい。

恐る恐る、手を伸ばす。


…怖い。

声の感じは優しそうなのに、顔を見れない。

ただただ、人間という事だけで、こんなにも怖い。


きっと、私の手がブレすぎたんだろう。

触れてしまった、彼の手に。

…っ!

反射的に、そう、本能で防衛の反射。

もちろん引っ掻くつもりはなかった。


けれど、私が無我夢中で取った行動は、彼の手を払いのけるという事だけでは終わらず、彼の手の平に爪痕を残してしまった。


あぁ、私は人を傷付けてしまった。


その小さな爪痕が、彼に大きな傷として残ってしまわないだろうか…。

たまたま行きずりで話しかけただけの女の子の取った行動なんて、彼にとって大した事がなければいいのだけど。
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