君の声が、僕を呼ぶまで
私がカバンを差し出すと、引っ手繰るように奪って、屈みこむように抱えた。

「離れて歩くから、せめて、ちゃんと家まで帰れるかだけでも、ね?」

今度は首を振らない。

…ギリギリのイエスって事かな…


「沙羅」

「うん、あっちは陽太先輩が…」

小春に聞こえないように小声で教えてくれた沙羅と、そこで別れた。



小春の足取りは、思ったよりもしっかりしていた。

一歩一歩、何かを噛みしめるように、踏み抜いていくような。

闇に引きずり込もうとする自分の影を、確かめているような。

一歩一歩、自分から、その沼に沈んでいこうとしているような。


小春を全ての敵から守ってくれるのは、その奥深くにある真っ暗な世界なの?
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