君の声が、僕を呼ぶまで
「仕方ない、1人で行くしかないなぁ…」


そう覚悟したのは、ほんの数分前。

僕の覚悟を、いとも容易くへし折ったのは、新校舎というダンジョンだった。


迷路のような廊下は、右へ左へ不気味に腕を伸ばして襲い掛かってくる化け物のようで、窓から差し込む光ですら、その道を照らし導くどころか、暗い影を増長させる。


飲み込まれまいと必死に走りながら逃げ回っているうちに、僕は中庭へと追いやられてしまった。


呼吸は乱れ、肩で息をしながら、この季節に似つかわしくない程の生温い冷や汗を、新しい制服の袖で拭う。

汗が滲み込んだ紺色のブレザーは、まるで僕の代わりに泣いているように見えた。


いよいよ以て、不安の割合が、9を振り切りそうになったその時…。
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