君の声が、僕を呼ぶまで
当然、彼は怒った。

本当は、殴られるのは、こんなにグチャグチャしている私だったのに。


どうして、智秋がそこにいたのかは分からない。

でも、そこにいた。

そして、私を庇った。


唇の端が切れて、血が出ている。

「沙羅、大丈夫?」

「大丈夫だよ、ごめんね…」

「ん、なら良かった」


ハンカチで、智秋の血を拭う。

ビクッと跳ねたので、慌てて、「ごめん、痛かった?」と聞いたけど。

智秋の顔は、そういう顔じゃなくて。

何だろう、こう、脅えているような。


そうだ、こんなふうに話すのは久しぶりで。

智秋に最後に触れたのは、あの時、智秋の手を振り払った時だ。
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