君の声が、僕を呼ぶまで
「大丈夫、ちょっとだけ、痛かっただけ、だから」

苦笑いする智秋の顔を真っ直ぐ見れなかった。

「…ごめん、ごめんね…」

涙を見せたくないとかじゃなくて。

合わせる顔がないって、こういう事をいうのかな。


私は震える手で、智秋の唇に、もう一度ハンカチを当てる。

智秋は、少し震えながら、目を閉じて、じっとしている。


先に、肩を撫でおろすように、軽く息を吐いたのは智秋の方で。

「ありがとう、沙羅」

ちょっとだけ、安心したような顔で言った。

智秋の震えが、治まっていた。


許されるなんて思ってない。

あの日、智秋の唇に傷をつけたのは私。

最後の最後まで、私は追い打ちをかけてばかり。


それらが、私の、未だ裁かれずにいる、四つの罪。
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