君の声が、僕を呼ぶまで
だから、陽太先輩に保健室で何度もキスをされながら、頭の片隅で気になっていたのは、

「智秋にとっての神聖な保健室で、こんな事…」

と、目の前の好意ではなく、自分に起こっている行為ではなく、智秋の事だった。


陽太先輩の事、嫌いじゃないのは本当。

好き、だと思う。

でも、その好きが、どういう好きなのか分からない。

…なんていう、よく聞く疑問が浮かんできたわけで。


ただ、痛かった。

血が出ている膝が、何故か、あの日の智秋の唇の傷を思い出させた。

捻って熱を持ち始めていた足首に、陽太先輩の唇が触れた時、痛かった。

でも、その痛みが心地良かっただなんて、自分でも理由がよく分からない。

どこもかしこも痛くって、でも、全部許されたような錯覚を覚えたのかもしれない。


そしてそのまま流されるまま流れた時間は、華ちゃんの一言で、中学へと巻き戻った。

智秋の時間だけでなく、私の時間まで。


智秋が、苦しんでる。

小春ちゃんに自分を重ねて。


智秋の手を振り払った事がある私に、今更、何が出来るだろう?

私が傍にいたら、もっと嫌な事を思いだしたりしちゃうんじゃないかな…。
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