君の声が、僕を呼ぶまで
「空、学校楽しいか?」

「うん!」

曇りのない、満面の笑み。

俺は、空のおでこに、優しく唇をつける。

そうしてやると、赤ちゃんの頃から空は、すごく嬉しそうな顔をしてたから。


1,2,3,4,5、6、7

俺も心の中で指折り数える。

こないだの誕生日で、空は7歳になった。

空が生まれてしばらくして病気が分かった時、医者は「5歳、そこを目途に覚悟をお願いします」と言った。

空の小学校の入学式を、本人以上に待ち侘びていたのは、両親や俺だっただろう。


8,9、10、11、12、13、14…

俺は、続きを数えるのを途中でやめた。

中学校の入学式も無事に迎えて欲しい。

たくさん勉強して、望む高校に入って欲しい。

だけど、それ以上に、明日も生きていて欲しい。


些細な祈り、贅沢な祈り。

この小さな命に課せられた運命は、どれほどに重たいものなんだろうか。

一日が終わる度に、安堵の溜息が漏れる。

それと同時に、眠る空を見て、明日起きてこなかったらどうしようという、酷く激しい不安に襲われる。


正直、両親も俺も、一日一日、自分達の寿命も削れる想いだった。

だけど、何よりも空本人が生きる事を諦めずに笑っている事に、救われていたんだ。
< 271 / 389 >

この作品をシェア

pagetop