君の声が、僕を呼ぶまで
怖い。

せっかく、学校に来るだけの勇気は持てているのに。

学校に行く。

空が望んだけれど、永遠に失われてしまったもの。


この世界に、彼女の命を繋ぎ止めておかなければと思った。

その楔にならなければいけないと思った。

まるで警戒心剥き出しの猫のような彼女に優しくしてあげたかった。

人は、そこまで怖くないんだよって、教えてあげたかった。



「小春ちゃん」

彼女の心に近付きたくてそう呼ぶと、驚いていたけど、少しだけ、空みたいにはにかんで笑った。


山崎さんにも、小春ちゃんにも、学校という場所を楽しんで欲しかった。

そして、生きているという当たり前のような喜びをめいいっぱい感じて貰いたかった。



でも、また怖くなった。

2人から、ほのかに向けられている好意に気付いたから。

優しくされると、恋と錯覚するのは、よくある話で。


ただ、俺は、空みたいに2人がいなくなる事の方が怖かったから。

だから、その好意を扱いかねていて、どうしていいか、また分からなくなっていたんだ。
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