君の声が、僕を呼ぶまで
傍目でポカンとしている僕を気に留める事もなく、彼女は…、

相川小春さんは、怪我をしている雛鳥を白衣の男性に指し示した。


「あぁ、なるほどね…。連れておいで、消毒してあげるから」

彼女は少しだけ安心したような表情を浮かべ、雛鳥にそっと手を伸ばす。


「…あ、新しい制服に血が付いちゃうかも…」

僕は、慌ててハンカチを彼女に差し出した。


相川さんは、またしても身を強張らせたけれど、少し考え込んでいるようだ。


「ばい菌が入ったらいけないし、ハンカチで包んでから連れておいで」

保健の先生らしき彼が、ニッコリと助け船を出してくれた。


下を向いたまま、僕のハンカチに手を伸ばす彼女の手は震えている。
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