君の声が、僕を呼ぶまで
それを差し出してから、もう随分、時間が経った気がする。

……受け取って、もらえない、のかな

…やっぱり、私には無理だったんだ。

彼の横を抜けて、走り去ろうとした時。


「待って!」

彼に手を掴まれた。

反射的に振り払おうとするが、強く握られている。

こわい、こわい、こわい、こわい!!!


「…ありがとう」

彼は、力強い手とは真逆の、柔らかい声で言う。

「でも、僕、絆創膏なら持ってるんだ」


…余計なお世話ってやつだったんだ。

出しゃばるから、欲張るから、そんな事になるんだ。


「ほら、これ」

逸らしていた目の片隅に、見覚えのある絆創膏がチラついた。

ゆっくりと、それに目を向けると。


クタクタになった、カラフルな黒ネコ柄の絆創膏。

私は思わず顔をあげた。

目が合ってしまった。
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