君の声が、僕を呼ぶまで
「これは、入学式の日に貰った、僕のお守りなんだ」

小春は覚えてないと思う。

でも、僕にとっては、あの時が小春との始まりで。

不安だらけだった高校生活が、小春のおかげで、少しだけ良い始まり方をしたなぁって思えた。


だから、ねぇ、小春…


その時、僕の手の平に、小春が自分の手を重ねた。

「…わぁっ!?」

こればっかりは、配慮する余裕もなく、反射的に大きな声で驚いてしまう。

小春は震えながらも、何度も何度も、血が滲んでいる僕の手の平を撫でる。


何故だろう。

入学式の日に、小春が引っ掻いた傷痕を撫でてくれているような気がする。

もう影も形も残っていない、見えなくなった、でもあの日確かに、小春が僕につけた、小さくて重かった傷痕。
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