君の声が、僕を呼ぶまで

●小さな春は、雪に焦がれる

玄関で、もそもそと靴を履く。

「ほぉら、小春、笑って笑って」

お母さんが明るく言うけれど、私は、わざと一つ一つの動作を、もたつかせる。


「塚原先生が待ってるんでしょ?」

お母さんも、わざと、先生の名前を出す。

「サラからも言ってちょうだい」

両腕で抱き上げているサラに、そう促す。


うちに来た時は、両手に収まるくらいに小さかったサラも、今では、お母さんにヨイショと抱えられるほどに大きくなった。


朝食の時は、不貞腐れた態度を取るくせに、好物のミルクパンを食べ終わると、途端に猫撫で声でお母さんに甘えだす。

黒色の毛並みがやたら艶やかなのは、毎日欠かさず、昼間、お母さんに丁寧にブラッシングをして貰っているからだろう。
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