君の声が、僕を呼ぶまで
少しだけ遠慮がちに先生に近付いて、隣の椅子に座る。

書類の山2つ分、距離を空けた隣。


正面から見られるリスクもない。

でも横顔を盗み見しやすいポジション。

この距離感がベスト。

これ以上近付くと、きっと私は、キャパオーバーしてしまう。


それだけなら、まだマシ。

…雪人先生の事まで、拒絶する自分になってしまいたくない…

使命感に燃えていた気持ちに、ふと暗い影が落ちる。


「小春ちゃんが俺の専属秘書になってくれたおかげで、去年から仕事が捗って助かっております」


雪人先生が書類に判子を押しながら、手をヒラヒラと私の方に伸ばし、次の書類を渡すよう促している。

その手は、私の気持ちを見透かして、暗い世界から連れ戻そうと差し伸べてくれた手。
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